ことし10周年を迎えるムーリット。みなさまに何かスペシャルな手編み糸を紹介したいと、テキスタイル作家の佐藤千香子さんに、天然の染料をつかった「ソックブランク」の染色をお願いしました。
ソックブランクとは、2本取りにした編地をつくり、染色後に解きながら編むと左右同じ色の靴下が編めるというユニークな糸のこと。下の写真のように、編地からソックスを編んでいきます(参考作品写真)。
これまでムーリットでは、ブルガリアの民族衣装に使う羊毛製コード紐を用いたアクセサリー作品や貴重な資料の展示を通して、天然染色の奥深さ・面白さを教えてくださった佐藤さん。
▲2018年のイベント「COPNEIGE」
素材としてのソックブランクを前に、あの豊かな自然の色たちをここに置いたらどんなに素敵なソックスが編めるだろう……わくわくとした気持ちで相談したところ、想いを実現してくださることに。
そして2月の晴れた日の午後、ソックブランクの染め具合を確認する工程を見学させてもらうため、佐藤さんの工房を訪ねました。
やわらかな光の差し込む工房で、いつもブルガリアのラジオをBGMに作業をされるそう。
窓の外にはローリエが枝を伸ばしていました。
この日コンロにならんだお鍋にはコチニール染液で色付けしたもの、染める前の下処理をしたソックブランクが浸かっていました。
▲コチニールで染めているもの。液に透明感があるのはよく色が入ったから、と教えてもらいました
▲次に染めるリンゴの木の染色液を準備します
今回のソックブランクは、パネル状の編地に「CONTACT DYEING」の手法でさまざまな植物や自然の染料で模様をつけつつ、さらに染色液で煮て色を入れるという手の込んだもの。
佐藤さんは、ブルガリアのエタル野外民族博物館で天然染色の技法を保存・発展させるための染色技師として従事していたときに「CONTACT DYEING」の手法に出合いました。
▲エタル野外民族博物館のスタッフの皆さんと
さまざまな方法で色付けの実験をした、色とりどりのサンプルもみせていただきました。
偶然のもたらす色や模様はもちろん、素材によっても染まり具合や風合いが変わるのも興味深いもの。
こんなにかわいらしいミニスケインも!
ブルガリアのウール、フィンランドのウールで実験をしたサンプルたちです。
下の写真はブルガリアの伝統的なイースターの卵で、植物を貼り付けてからたまねぎで染色したもの。こちらは佐藤さんが特別講師をしている高校で生徒と一緒につくった卵で、ハーブの新芽が模様になっています。エコプリントや「CONTACT DYEING」の原点ともいえる、生活に根付いた技法です。
さて、いよいよソックブランクの染めあがりのチェックです。
この日はたまねぎで色付けした糸の様子を確認します。
左がアルミ、右が鉄での媒染です。同じたまねぎでも媒染によって発色がこんなにかわります。
▲濃い色の左側が鉄、明るい色味がアルミでの媒染です
まずはアルミ媒染からオープンです。
▲巻き込んだ素材たちが、ソックブランクに色と模様をつけています
▲アカネやログウッド、ウコンなどに加え、玉ねぎの皮、ユーカリ、コーヒーなど身近な存在も大活躍です
次は鉄の媒染です。
▲しっかりと色が出ているのはアボカドの皮
▲色濃く、アクセントになっているのは紅茶です
ソックブランクを縛る紐も、素敵な色に染まりました。
ソックブランクは、このあと水洗いをして乾燥させます。
染めあがった色は、空気にふれることですこし変化があるそうです。ムーリットにやってくる頃にはしっかりと色味が落ち着いて、完成作品としての再会がたのしみです。
佐藤千香子さんの手を通して、身近にある素材もまたさまざまな「色」を持っていることを改めて教えていただきました。
そして、ていねいな仕事から自然の美しさを引き出す貴重な瞬間に立ち会うことができました。
たっぷり工程を見学させてもらったら、下準備に漬けておいたリンゴの木からきれいな琥珀色が水に溶け出ていました。
佐藤千香子さんが染めたソックブランクは、3月4日(金)より二子玉川 ムーリット(MOORIT WORK ROOM)にて展示販売を行います。
4日(金)・5日(土)には、作品と同じようにソックブランクを染めることができる、佐藤千香子さんに習う染色ワークショップ「ソックブランクを染めよう」を開催します。
糸は、おなじみのマノスデルウルグアイ「アレグリア」。こちらも特別にマノスにお願いしてソックブランクにしてもらいました。
ムーリットのためだけに染められた、自然のやさしさに包まれた特別なソックブランクたちです。ぜひ実物に会いにムーリットに遊びにいらしてください。
佐藤千香子 Chikako SATO
テキスタイル作家
フィンランド、ブルガリア、キルギスに暮らしながら草木染めや羊毛等と向き合う。自然の空気感をもった作品を制作。